労災不支給決定を審査請求で取消すことができました

1 Kさんについて
 Kさんは、建設現場での解体作業や溶接作業といった石綿ばく露作業に長年従事してきた労働者です。Kさんは、平成25年9月に吐血し、原発性肺がんであるとの診断を受け、肺を一部切除する手術を受けました。その後、原発性肺がんの原因が長年にわたる石綿ばく露作業であるとして労災申請をしましたが、申請が却下されてしまいました。

2 Kさんの事案の問題点
 Kさんは、長年にわたり解体作業や溶接作業に従事してきましたが、札幌東労基署が認定した石綿ばく露作業の期間はわずか2年8か月しかありませんでした。これは、事情聴取のやり方に大きな問題点があったためです。
 札幌東労基署の行った事情聴取では、石綿にばく露したかどうかを質問し、Kさんが「わかりません」と回答した場合は石綿ばく露作業にあたらないとしました。しかし、普通の労働者にとって、自分が行った作業で石綿にばく露していたかどうかを正確に答えることは困難です。そのため厚労省は、『石綿ばく露歴把握のための手引』で石綿にばく露しやすい作業を写真で示して、石綿ばく露歴を見落とすことのないようにしていたのですが、Kさんに対する事情聴取ではこの手引が全く使用されず、Kさんは手引があるということさえ知りませんでした。審査請求では、このようなずさんな聴取方法の不当性を主張し、労災審査官が手引を用いて石綿ばく露作業の聞き取りを行った結果、Kさんの石綿ばく露作業歴は10年8か月と認定されました。
 労基署の事情聴取がきちんと適正に行われるとは限りません。疑問があるときは、弁護団にご相談ください。

3 今後の課題
 Kさんは、手術中ビデオでプラークが確認できたため、労災の認定基準を満たすことになりましたが、手術を行っていない労働者の場合、X線やCT画像ではプラークの存在がわからない場合もあります。これまでは、石綿ばく露作業に10年以上従事してきた原発性肺がんの患者は、プラークが認められないとしても、肺内に石綿小体があれば本数に関係なく労災の認定基準を満たすとされてきました。ところが、平成24年に石綿小体が5000本以上なければ労災を認定しないという不当な基準が作られ、認定基準が厳しくなりました。既に、労基署の現場ではこの不当な認定基準が用いられています。認定基準を厳しくすることは、石綿被害の救済に逆行するものであり、絶対に認めることはできません。全国では裁判になっているケースもいくつかありますが、当弁護団では、今後とも、認定基準を適正化するよう求めていきます。

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