みなさんは、「じん肺診査ハンドブック」をご存じでしょうか?
じん肺診査ハンドブックは、じん肺健康診断の具体的実施手法や判定方法などが記載された、厚生労働省が作成したハンドブックです。基本的に、じん肺の健康管理や認定についてはこのハンドブックに基づいて判断されることとされているため、じん肺患者にとって非常に重要なものといえます。
そのハンドブックが、約50年ぶりに改訂され、本年4月1日から適用されることとなりました。
一般論として、約50年もの間大幅な改訂がされてこなかったことを考えると、医療の進展、医学的知見の集積等を踏まえ、現状に即した内容に改訂することは、妥当であるといえます。しかしながら、改訂内容の中には、必ずしも医学的な根拠が十分でない内容が含まれるなど、じん肺患者にとって不利益となりかねない改訂が含まれているといわざるを得ず、改訂のすべてを評価することはできないものです。
いくつか問題点を指摘しますが、まずはCTに関する記載です。
じん肺の管理区分を判断する前提となる画像評価は胸部エックス線写真(いわゆるレントゲン写真のこと)をじん肺標準写真と対比して決定することとされており、CT(コンピューターで作成した人体の断層画像)は参考資料とされているのですが、にもかかわらず、ハンドブックでは、石綿肺の診断について「・・・HRCT(通常のCTよりも精密な特殊なCT)で確認することが肝要である」と記載されてしまいました。「肝要」は「最も必要なこと」を意味するものですから、この記述は、医師に対して、HRCTで胸膜下線状影や点状影(どちらも胸部CTで見られる異常所見です)が確認されることが必要であるという誤解を与えかねません。
また、じん肺は粉じんを吸入することで生じる病気であり、喫煙でじん肺は発症しないにもかかわらず、ハンドブックでは「喫煙はじん肺の罹患や進展と関連すると言われている」と記載されてしまいました。具体的な根拠を示すこともなく、あたかも喫煙の有無とじん肺の発生との間に関連性があるかのような記述になっており、問題があるといわざるをえません。
さらに、診療報酬の対象にもなっておらず、実臨床での検査ではないとされており、有効性等が確立した臨床検査とは評価できない痰の好中球エラスターゼ検査について、ハンドブックでは、続発性気管支炎の検査として「膿性痰の客観的な指標として、痰の好中球エラスターゼ値があり、膿性痰が持続する場合には検査して確認することが望まれる」と記載されてしまいました。代表的なじん肺合併症である続発性気管支炎の検査は、じん肺患者やその家族の生活にとって死活的に重要なものです。そのような検査において、いまだ一般的な呼吸器臨床で用いられる水準に至っていない検査方法を推奨するかのような記述をハンドブックに記載すべきではありません。
こうした問題点については、全国じん肺弁護団連絡会議や、当弁護団からも、パブリックコメントで意見を出して指摘し、修正を求めたのですが、不当にも、最終的な改訂には反映されませんでした。
大変残念ではありますが、パブリックコメントの結果も公表されており、上記のような問題点が指摘されていたことは社会一般に公開されている状況ですので、改訂されたハンドブックによる不当な運用がなされることがないよう、今後も注視していきたいと思います。


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