弁護団について

北海道アスベスト被害者支援弁護団について

2023年(令和5年)11月
北海道アスベスト被害者支援弁護団
団長 弁護士 田中貴文

  1.  アスベスト(石綿)は、耐火性・断熱性・防音性・絶縁性・耐薬品性に優れ、かつ安価であることから「奇跡の鉱物」といわれ、建材製品(耐火ボード、吹き付け石綿、サイディング材、石綿スレート材)のほか、自動車のクラッチやブレーキなどの摩擦材、接続部分からの流体の漏洩防止用のシール材、ガスケット・パッキンなど、私たちの生活のあらゆるところで使用されてきました。
  2.  しかし、アスベスト(石綿)は、肺内に蓄積され、中皮腫や肺がん等の重篤な疾病の発症リスクを高める危険性のある物質です。アスベスト(石綿)の「発がん性」については戦前から指摘されており、1960年代半ばには「中皮腫」を発症させることが明らかになっていました。しかし、石綿製品製造に関わる企業は、石綿の持つ危険性について認識しながらも、石綿の利便性と低価格性から利潤追求を優先させ、労働者や市民の生命・健康を無視し続けてきました。国も、石綿の危険性と被害の発生を認識していながら、一貫して産業界の利潤追求を優先する政策を取り続けてきました。
  3.  2005年(平成17年)6月、クボタは、尼崎市の神崎工場で74名の労働者がアスベスト関連疾患で死亡したこと、工場周辺に住み中皮腫で療養中の3名に見舞金を支払ったことを公表しました。水道管はもともと鋳鉄管が主流でしたが、クボタは、石綿水道管製造のため、極めて毒性の強い青石綿を使用して、水道管製造のトップメーカーの地位を築きあげたのです。このクボタショックを契機にして、アスベスト被害が社会問題となり、昭和50年代からは個別企業に対する健康被害についての損害賠償請求訴訟(鈴鹿じん肺訴訟、長野じん肺訴訟、菊地じん肺訴訟など)のほか、昭和60年代からは造船企業に対する集団訴訟(横須賀じん肺訴訟、三菱長船じん肺訴訟)が、2006年(平成18年)には国に対する大阪泉南アスベスト訴訟が提訴され、いずれも被害者に対する賠償を勝ち取ってきました。
  4.  2008(平成20年)東京地裁と横浜地裁で「建設アスベスト訴訟」が提起されました。被告は、アスベストの危険性を知りながら利潤追求を優先させて労働者や市民の生命・健康を無視し続けてきた建材メーカーと、建材メーカーの利潤追求を放置してきた国です。東京、横浜に引き続き、札幌、大阪、京都、福岡でも「建設アスベスト訴訟」に多くの被害者が加わり、被害救済を求めて立ち上がりました。そして、2021年(令和3年)5月17日、最高裁判所で、国の責任を認める判決が確定しました。この判決を受けて翌2022年(令和4年)1月、「建設アスベスト給付金制度」が施行され、国はこれまで4000人近くの被害者に給付金を支給してきました。
  5.  アスベスト被害の潜伏期間は長く、アスベストを吸ってからおよそ10年から40年後に発症するというおそろしい病気です。わが国においてアスベストの輸入が全面禁止とされたのは2006年(平成18年)ですから、アスベスト被害の発生はまだまだ続いており、近年も毎年約1000名が労災認定を受けています。しかし、現在でもアスベストについての労働者・市民の理解は十分でなく、また医療機関においても「アスベストの職歴」を聞くなどの意識は薄い状況です。自分の病気がアスベストを原因とするものであることを知らず、きちんとした治療を受ける機会を失っている方、労災補償等の給付を受けていない方は少なからずいるものと思われます。

 私たちは、アスベスト被害者を救済し、アスベスト被害を根絶するために、「北海道アスベスト被害者支援弁護団」を設立し、建設アスベスト訴訟の提起など、被害者の救済に取り組んできました。現在、北海道内の多数の弁護士が当弁護団に参加しています。
 今後も、すべてのアスベスト被害について補償がなされるべく活動を続けます。みなさまのご支援、ご協力をお願いします。