北海道アスベスト被害者支援弁護団について
2012年(平成24年)11月
北海道アスベスト被害者支援弁護団
団長 弁護士 藤本 明
(札幌弁護士会所属)
- アスベスト(石綿)は、耐火性・断熱性・防音性・絶縁性・耐薬品性に優れ、かつ安価であることから「奇跡の鉱物」といわれ、建材製品(耐火ボード、吹き付け石綿、サイディング材、石綿スレート材)のほか、自動車のクラッチやブレーキなどの摩擦材、接続部分からの流体の漏洩防止用のシール材、ガスケット・パッキンなど、私たちの生活のあらゆるところで使用されてきました。
- アスベスト(石綿)の「発がん性」については戦前から指摘されており、1960年代半ばには「中皮腫」を発症させることが明らかになっていました。しかし、石綿製品製造に関わる企業は、石綿の持つ危険性について認識しながらも、石綿の利便性と低価格性を活用した利潤追求を優先させ、労働者や市民の生命・健康を無視し続けてきました。
国も、石綿の危険性と被害の発生を認識していながら、一貫して産業界の利潤追求を優先する政策を取り続けてきました。 - 2005年(平成17年)6月、クボタは、尼崎市の神崎工場で74名の労働者がアスベスト関連疾患で死亡したこと、工場周辺に住み中皮腫で療養中の3名に見舞金を支払ったことを公表しました。水道管はもともと鋳鉄管が主流でしたが、クボタは、石綿水道管製造のため、極めて毒性の強い青石綿を使用して、水道管製造のトップメーカーの地位を築きあげたのです。
このクボタショックを契機にして、アスベスト被害が社会問題となり、国はこれまでの労災補償のほかに、「石綿による健康被害の救済に関する法律」を制定して家族や近隣住民に対する補償も行うようになりましたが、その給付額は極めて低額なものにとどまっています。 - これまで、アスベストの被害救済については、昭和50年代からは個別企業に対する損害賠償請求訴訟(鈴鹿じん肺訴訟、長野じん肺訴訟、菊地じん肺訴訟など)のほか、昭和60年代からは造船企業に対する集団訴訟(横須賀じん肺訴訟、三菱長船じん肺訴訟)が取り組まれてきました。
クボタショック以降は、平成18年に大阪泉南アスベスト訴訟、リゾートソリューション(旧エタニットパイプ)アスベスト訴訟が提訴されました。大阪泉南アスベスト訴訟は、企業が既に消滅していることから、国を被告としており、現在も係争中ですが、個別企業を被告とした損害賠償請求訴訟はいずれも被害者に対する賠償を勝ち取っています。
平成20年に東京地裁と横浜地裁で、「建設アスベスト訴訟」が提起されました。被告は、アスベストの危険性を知りながら利潤追求を優先させて労働者や市民の生命・健康を無視し続けてきた建材メーカー40数社と、建材メーカーの利潤追求を放置してきた国です。
東京、横浜に引き続き、札幌、大阪、京都、福岡でも「建設アスベスト訴訟」に多くの被害者が加わり、被害救済を求めて立ち上がりました。 - 北海道には、かつてたくさんの金属鉱山、炭鉱がありました。北海道では、多くの弁護士が「金属じん肺訴訟」「石炭じん肺訴訟」「トンネルじん肺訴訟」などの集団訴訟に取り組んできました。そして平成23年4月25日には、「北海道建設アスベスト訴訟」を提訴しました。
アスベスト被害の潜伏期間は長く、アスベストを吸ってからおよそ10年から40年後に発症するというおそろしい病気です。わが国においてアスベストの輸入が全面禁止とされたのは平成18年ですから、アスベスト被害の発生はまだまだ続きます。平成19年以降の労災認定者は、毎年1000名を超えています。中皮腫による死亡者は、平成7年に約500名であったものが、毎年徐々に増加し、平成12年には700名、平成17年には900名、平成18年以降は1000名を超え、平成23年は1,258名となっています。 - アスベスト被害者は増え続けており、今後そのペースが落ちる状況にはありません。アスベストについての労働者・市民の理解は十分でなく、また医療機関においても「アスベストの職歴」を聞くなどの意識は薄い状況です。
おそらく、自分の病気がアスベストを原因とするものであることを知らず、きちんとした治療を受ける機会を失っている方はたくさんいるものと思われます。また、労災補償や、石綿救済法による給付を受けていない方も少なからずいるものと思われます。
私たちは、北海道におけるアスベストじん肺被害者の被害救済を支援し、アスベスト被害を根絶するために、70名以上の弁護士で「北海道アスベスト被害者支援弁護団」を設立しました。
みなさまのご支援、ご協力をお願いします。
