Q1 アスベスト(石綿)って何?
アスベスト(石綿)は「せきめん」「いしわた」とも呼ばれる、天然鉱物です。
アスベストは、髪の毛の5000分の1という極めて細い繊維で、熱・摩擦・酸やアルカリなどの薬品にも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っています。
また安価であることから、「奇跡の鉱物」とも言われていました。
Q2 アスベスト(石綿)は何に使われてきたのですか?
アスベスト(石綿)は安価であり、耐火性・断熱性・防音性・絶縁性・耐薬品性という特質を持つことから、アスベストは私たちの生活のあらゆるところで使用されてきました。
主な用途は、建材製品(※1)と石綿工業製品(※2)に分けられ、その8割以上は建材製品です。
※1 建材製品
耐火被覆、吸音・断熱のための石綿吹き付け材
石膏ボード、スレート板、吸音板、外壁材、Pタイル、煙突など
※2 石綿工業製品
自動車のクラッチやブレーキなどの摩擦材
接続部分からの流体の漏洩防止用のシール材、ガスケット・パッキンなど
Q3 アスベスト(石綿)の有害性と潜伏期間について
アスベスト(石綿)繊維は極めて細い繊維であることから、飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入されてヒトの肺胞に沈着しやすい特徴があります。吸い込んだ石綿の一部は痰に混ざって体外へ排出されますが、石綿繊維は丈夫で変化しにくい性質があることから肺の組織内に滞留することになります。この体内に滞留した石綿が要因となって、肺がんや中皮腫などの病気を引き起こすことがあります。
石綿による健康被害は、石綿を吸ってから長い年月を経て出てきます。中皮腫は平均35年という長い潜伏期間の後に発病することが多いとされています。
Q4 自分がアスベストを吸った可能性はあるのですか?(曝露機会)
曝露機会には、直接曝露と間接曝露があります。
(1) 直接曝露
1.石綿原料に関連した作業
- 石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業
- 倉庫内等における石綿原料等の袋詰めまたは運搬作業
- 港湾荷役
2.石綿製品の製造工程における作業
- 石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品製造
- 石綿セメントまたはこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品製造
- ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、ガスケット(パッキング)等に用いられる耐熱性石綿製品製造
- 自動車、捲揚機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品製造
- 電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられています。)または電解隔膜、タイル、ラスター等の充填材、塗料等の石綿を含有する製品製造
3.石綿原料に関連した作業
- 石綿の吹付け作業
- 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
- 石綿製品の切断等の加工作業
- 石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設等の補修または解体作業
- 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
- 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)、バーミキュライト(蛭石)、繊維状ブルサイト(水滑石))等の取扱い作業
(2)間接曝露
直接石綿を取り扱うことはないが、石綿を取り扱う現場で作業をすることによって石綿ばく露を受けることを指します。
厚生労働省のホームページには「石綿にさらされるおそれのある作業例」として以下のような作業が掲げられています。
1.造船所内の作業
塗装・溶接工、電機工、配管工、保温工、造船所内の事務員・掃除工など
2.船に乗り込んで行う作業
船員、機関士、航海士、乗組員など
3.建築現場の作業
型枠、とび、内装大工、鉄筋工、建築設計、現場監督、電機工、配管、クロス工、左官、塗装、サイディング工など
4.発電所、変電所
5.鉄鋼所または鉄鋼製品製造に関わる作業
6.自動車・鉄道車両等を製造・整備・修理・解体する作業
7.石油精製、化学工場内の精製・製造作業や配管補修等の作業
8.エレベータ製造、保守に関わる作業
9.道路建設・保守
10.消防士
11.歯科技工士
12.ビルメンテナンス
13.その他が学校の教員など
(3)以上の職業性曝露のほかに
家庭内曝露(石綿工場に働く夫の作業衣を洗濯することによりばく露を受ける妻や、空になった石綿袋を家に持ち帰り、子供がそれで遊んだりすることによるばく露)、近隣曝露(石綿鉱山および石綿工場の近隣住民でのばく露)が報告されています。
Q5 アスベスト(石綿)を吸うとどのような病気になるの?
石綿を吸うことにより発生する疾病としては主に次のものがあります。労働基準監督署の認定を受け、業務上疾病とされると、労災保険で治療できます。
(1) 中皮腫
肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜などにできる悪性の腫瘍です。中皮腫のほとんどは石綿ばく露が関与しています。
石綿ばく露から発症までの潜伏期間の多くは40年前後と非常に長い疾患です。中皮腫の発生の危険は石綿の累積ばく露量が多いほど高くなります。しかし、石綿肺、肺がんより低濃度でも危険性はあり、職業的なばく露だけでなく、家庭内ばく露、近隣ばく露による発症もあります。
(2) 肺がん(原発性肺がん)
肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。石綿ばく露から肺がん発症までの潜伏期間の多くは30~40年程度と長くなっています。石綿の累積ばく露量が多いほど肺がんになる危険が高くなることが知られています。
(3) 石綿肺
石綿を大量に吸入することにより、肺が線維化する「じん肺」という病気の一つです。肺の線維化が進行していき、酸素-炭酸ガスの交換を行う機能が損なわれるため、呼吸困難が生じます。通常、石綿を職業性に大量に吸入ばく露した労働者に起こり、石綿ばく露開始から10年以上経過して石綿肺の所見が現れます。
(4) 良性石綿胸水
胸水とは胸腔内に体液が貯留することであり、石綿以外の様々な原因によっても生じます。とくに、石綿粉じんを吸入することによって、胸腔内に胸膜炎による滲出液(胸水)が生じる場合を良性石綿胸水と呼びます。
比較的高濃度の石綿粉じんを吸入することによって生じ、発症までの潜伏期間は平均12~30年と他の石綿関連疾患より短い方です。
(5) びまん性胸膜肥厚
臓側胸膜(肺を覆う膜)の慢性線維性胸膜炎の状態であり、通常は壁側胸膜(胸壁を覆う膜)にも病変が及んで両者が癒着していることが多いです。胸膜プラークと異なり、びまん性胸膜肥厚は結核性胸膜炎など石綿以外の様々な原因によっても生じます。良性石綿胸水と同様に比較的高濃度の石綿の累積ばく露により発症すると考えられています。職業性ばく露によるびまん性胸膜肥厚症例での石綿ばく露期間はおおむね3年以上になります。
Q6 アスベストの自覚症状にはどのようなものがありますか?
アスベストに暴露した可能性のある方で、、以下のような自覚症状が出た場合には、アスベスト専門病院で診察を受けることをお勧めします。
- 息切れがひどくなった
- 胸が痛い
- 咳や痰が増えた
- 痰の色が変わった
- 痰に血が混ざる
- 激しい動悸がする
- かぜをひいてなかなか直らない
- 微熱が続く
- 就寝時に横になると息が苦しい
Q7 どこで診察を受ければいいのですか?
北海道労働局は、石綿健康管理手帳による健康診断を、以下の19の病院に委託しています。手帳を持っていない方は、自費で健康診断を受けることになります。
診察を受ける際には、必ず、どこでアスベストを吸った可能性があるかを申告してください。
石綿健康診断委託医療機関(平成24年10月現在)
函館 | 国立病院機構函館病院 |
---|---|
室蘭 | 新日鉄室蘭総合病院、日鋼記念病院 |
苫小牧 | 北海道苫小牧病院 |
岩見沢 | 北海道中央労災病院 |
旭川 | 市立旭川病院、旭川医科大学病院 |
釧路 | 釧路労災病院 |
留萌 | 留萌市立病院 |
札幌 | 北海道大学病院、北海道労働保健管理協会、札幌南三条病院、 札幌緑愛病院、勤医協札幌病院、勤医協中央病院、JR札幌病院 |
帯広 | 帯広厚生病院、十勝勤医協帯広病院 |
北見 | オホーツク勤医協北見病院 |
Q8 アスベストが原因で病気になった場合にはどのような補償があるの?
(1) 石綿健康管理手帳
石綿を製造し又は取扱う業務、石綿の粉じんを発散する作業場における周辺業務に従事していた人で、一定の要件を満たす方に対しては、「石綿健康管理手帳」が交付されます。石綿健康診断委託医療機関で年2回、無料で健康診断を受けることができます。
制度の詳しい内容については、弁護団にお問い合わせください。
(2) 労災補償給付
石綿にさらされる仕事に従事していた労働者または労災保険の特別加入者で、中皮腫、石綿起因性肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の診断を受けた方については、一定の要件のもとに、治療費、休業補償給付が支給されます。
また、療養中に患者さんが亡くなった場合には、遺族補償給付が支給されます。
制度の詳しい内容については、弁護団にお問い合わせください。
(3) 特別遺族給付金
労災保険の遺族補償給付を受ける権利を時効によって失った場合には、一定の要件を満たせば、特別遺族年金または特別遺族一時金が支給されます。
制度の詳しい内容については、弁護団にお問い合わせください。
注 労災補償の対象とならない方はQ9
Q9 アスベスト粉じん職場で働いたことはないのですが、何か補償はありますか?
アスベスト粉じん職場で働いたことはない方でも、アスベストによる中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、著しい呼吸障害を伴うびまん性胸膜肥厚の疾病がある場合には、医療費の自己負担分、療養手当(月額約10万円)が支給されます。
また、認定された方が指定疾病が原因で亡くなられた場合に、葬祭料、救済給付調整金などが支給される場合があります。
制度の詳しい内容については、弁護団にお問い合わせください。